ぐんめんひみつきち

見た映画の忘備録

免許を取らなかった話。

ぼく、ぐんそぅは運転免許を持っていない。
高校生の最後の方で進路が決まった人から免許の取得が可能になる校則だったので高校生の時に取得してしまおうと思っていたのだがその時には免許を取得しなかった。
これからその理由をお話ししよう。
正直今でもトラウマで、あまり話したくない事件なのだが、これから免許を取得するという事になりそうなので、忘れないようにとの思いを込めて書きます。

高校三年生の夏、ぼくは自室で寝ている猫を撫でながら一緒に寝っ転がっていました。
当時MP3プレーヤーに移り変わりつつあったMDプレーヤーのイヤホンを耳に差し込んで、確かKOTOKO桃井はるこを聴いていたと思う、電波ソングな事は確かだと思います。
まったりとした実に素晴らしい時間を過ごしていると突然自室のドアが乱暴に開かれて、猫は驚いて飛び起きました。
「お兄ちゃん!事故!事故!」と妹が血相を変えて飛びこんできました。
「事故•••?ママンもパパンも家にいたはずじゃあ」
ぼくはママンかパパンが事故ったと考えたのですが違いました。
「聞こえなかったの!?外!外ですごい音がした!ママンもパパンも飛び出して行った!私も行く!」
ぼくはどうやら音楽を聴いていたため気付かなかったらしいがどうやら外で事故があったようです。
慌ただしく出て行く妹を見ながら、これみんな慌てて飛び出して行ったけど、携帯電話とか懐中電灯とかあった方が良いんじゃないのかな、と思い自室の工具箱からLEDの懐中電灯と、携帯電話を握り締めぼくも外に出ました。
ぼくの家は比較的山の中で、幹線道路となる道路は谷沿いの道です、谷の中は深い森林で、そこに落ちてたらヤバイな。と思ったのをはっきりおぼえてます。
ワイワイ騒いでいる方へ向かって走ると、十数人の人だかりが出来ていて、その中にぼくのママンと妹、そして隣の家の奥さんの姿を発見できました。
ぼくはそちらの方に近付いて行くと、事故現場が見えて来ました。
どうしてこうなった?
というのが最初の感想です。
ムーブだったかワゴンRだったかは忘れましたが、とにかくそういう形状の軽自動車が横転しています、フロント部分はグッシャリと潰れていて、脱出してきたであろう若者は道路の真ん中で泣き叫んでいます。
「おれが死ねば良かったんだ、おれが死ねば良かったんだ、おれが死ねば良かったんだ、ごめんなさい、おれが死ねば良かったんだ」
隣では同乗者と思われる若者が慰めるというか混乱しながらウロウロしつつ声をかけています。
ああ、こいつがやったんだな、と確信し、ママンと顔を見合わせました。
誰も彼に近寄ろうとしません、ママンとぼくはそろりそろりと近付いて声をかけました。
間近で見ると若い、とても若く見えます。
「免許持ってるのか?」
とぼくが聞きました。
彼は泣きながら
「あります、ありますごめんなさいああ•••」
と完全に錯乱しています。
ぼくは若く見えたために無免許運転の可能性を考えたのですがママンは違いました。
「飲んでるの?」
ハッキリとした、鋭い声、ママンが本気の時の声で短くそう聞きました。
「ごめんなさい、飲んでないです、おれが死ねば良かったんだごめんなさい」
「君携帯電話は?家族に連絡したの?」
とぼくが聞くと
「車の、車の中で、電話」
ああ、案の定だな、持ってきて良かったな、と自分の携帯電話、当時はW21T、名機でしたがそれはまた違う時に、を手渡し「家族に電話しろ」と言いました。

携帯電話を手渡した後、周りを少し冷静に見つめる余裕が出来ました。
フロント部分がグッシャリって、ここは見通しがいい片側一車線で、何にぶつかったんだ?と周りを見渡すと、街路樹がバッキリといってました。
その割にフロント部分の傷は通常の走行時で横に、横転している現状では縦にしっかりと街路樹の傷が残されています。
道路には字で表現出来ないほどめちゃくちゃなブレーキ痕。
しばらく考えて一つの結論に辿り着きました。
あっ、グランドセフトオートのカースタントを失敗した時と同じだ。
グランドセフトオート、皆さんやったことありますか?
ぼくはサンアンドレアスを嫌と言う程やりこみました、当時はバイスシティまでしか出てなかったように思いますが、あのゲーム、カースタントというミニゲームがあり、車で回転したりするとお金がもらえたりするんですよね。
あれを失敗させると今回みたくなるんじゃないかと思います、拙い語彙力ではありますが事故の状況を頑張ってお伝えしたいと思います。

事故車はかなりスピードを出して家の近くの道路を走っていた、深夜の若者だけのドライブでテンションが上がりきってしまったのか、ドライバーは眼前に迫る緩やかなカーブに気付かなかった。
慌ててハンドルを切るもハンドル操作を誤り反対側にハンドルを切ってしまって縁石に乗り上げ、方輪走行になってしまった。
方輪走行のままスピードは出っぱなしだったのでバランスを失い横転しながら街路樹に激突し事故車は道路にそのまま横転状態で静止した。
ドライバーと助手席に乗っていた同乗者は脱出し無事だった。
翌日縁石を見てみると予想通り衝突して抉れた痕が確認できました。

ドライバーと助手席の同乗者、二人だけなら免許取り立てのドライバーが起こした単独事故で済んだのですが、ドライバーは繰り返し「おれが死ねば良かったんだ」と繰り返していました。
そう、後部座席にもう一人いたのです。

事故車の所に大人が数人集まって何やら作業をしているの、横転した事故車を起こそうとしているのかな、と最初思ってスルーしてたんですけど、どうやら違うようでした。
前述の通り後部座席にもう一人、潰れたフレームやら何やらに挟まれて意識がないみたいでした。
ぼくは正直に言いますとそんなの見たくなかったので遠くから見守っていましたが、途中近所のおじさんが懐中電灯を探しに家に戻るとの事だったので用意していたLEDライトを渡しました。
ちなみにそのLEDライトは帰ってきませんでした。
「あんたなんでそんなに準備良いの、誰も携帯電話すら持ってなかったのに」
とママンがぼくに聞くあたり、直接事故音を聞いていないだけあって多少ぼくは冷静でいられたのでしょう。
隣の奥さんは青ざめた顔で「ああ、いやだ、思い出しちゃう」と言っています。
隣の奥さんは数年前にニュースにもなったぐらい大きな交通事故で息子さんを亡くしています。
それでこんな近所で事故られたんじゃ嫌でも思い出すよな、ニュース見ててぼくも驚いたものな、と思っていると、ドライバーの母親らしき人が到着しました。
ただ、ただ泣きじゃくる息子を抱きしめていました。

救急隊はまだ到着していません。
どうやら誰も携帯電話を持って出なかったのと誰かが通報したであろうという思い込みで通報が遅れたようです。
そこで後部座席に挟まれているドライバーの救出が始まりました。
ぼくは以前腕に怪我をした時に、いいかい、何か刺さったり挟まれたりしても、救急隊が来るまで抜いたりしてはいけないよ、下手に抜いたら圧迫されて止血されていた血管から血が吹き出たりして危ない事があるんだ、でも時と状況によりけりだから難しいんだよね。とお医者さんから聞かされていたので、手をつけない方がいいんじゃないかと少し思っていたのですが、近所の男連中はやる気満々で頑張っています。
逆に助けないと手遅れになる場合もあるかと思い、とりあえず静観している時に消防車数台からなる救急隊が到着しました。
そこからは救急隊に引き継ぎ、後部座席に乗っていた人は救出されました。

騒ぎも収まったので家に帰り、父親はビールを、ぼくたちは紅茶を飲みながら家族会議が開かれました。
皆完全にビビってしまい、ぼくが免許取るのは少し様子を見ようということになりました。
親としては自分の子供と同年代の人が家の近くで事故を起こした事が怖かったのでしょう、ぼくも怖かったです。

翌日、学校帰りにスーパーで買い物をしていると妹から電話がありました。
「昨日の後部座席の人、死んだよ。」


以上がぼくが今まで免許を取らなかった経緯になります。
今までは免許無しでもなんとかやってこれたのですが、流石にそろそろ限界が来たので免許を取ることにします、でもこの事件の事は絶対に忘れずに、安全運転を心がけたいと思います。